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泉の森自転車店
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 車内には運転手が一人と車掌が一人いる。
このバスはワンマンカーではない。
客が乗り込んだのを確認すると車掌は扉を閉めて運転手に発車の合図を送った。
素早い動作で運転手がバスを発車させ、国道24号線を走り出した。
 このボンネットバスが普通のバスと違う所は、車内が極端に狭いことと、エンジン音が前から聞こえることである。
それに車掌が乗っているバスに乗るのは初めてで、昭和30年代そのままといった感じがして面白い。
 バスは大和二見駅を通って左に進路を変え、山へと向かって走って行く。
バス停毎に乗客を降ろして行くので車内は人気がなくなってきた。
道は坂道とヘアピンカーブの連続で岩肌やガードレールすれすれの所を軽快に走って行く。
時にはジェットコースター以上のスリルを味わえる所もある。
 800m程の高い山と深い深い谷の横を通ってバスは富貴の町に入った。
11時55分東富貴に着き、折り返し時間まで15分あるので弁当を食べていると、車に乗ったおじさんが「バスの写真撮りに来たのか。」と言って来た。
「車でバス追いかけて、ええとこで写真撮ったらいいから、車に乗りや。」
と声を掛けてくれたが、帰りもボンネットバスに乗りたいし、バチバチとむやみに写真を撮る程フイルムがないので「フイルムすくないから。」と言って断った。
 折り返しのバスに乗って山を降りる道の途中で、先程のおじさんが先回りして、車の中から写真を撮っているのが見えた。
おじさんはこっちを見て笑っている。
「乗った方がよかったかな。」という気にもなってきた。
 帰りのバスの中は私たち二人だけだったので、車掌が「君ら、どこから来たの。」と聞いてきた。
「大阪府から」と言うと、「えらい遠い所から来たのやな。」と関心した様に言ってくれた。
12時10分に東富貴を出たボンネットバスは50分かけて五条駅に着いた。
 五条駅で31分待って、13時31分発和歌山行き443Dに乗った。
編成の中程にキハ10−51が組み込まれていたのでそのキハ10型という、気動車の中でもかなり古い型の車両に乗り込んだ。
 キハ10の車内は、座席がクロスシートで車両の中間に柱の様な出っ張った部分があり、そこの所だけが普通の背もたれよりも肉厚が太い。
その背もたれの太い座席の場合は何も問題がないのだが、ほかの座席は後ろの人がごそごそするたびに背中が気持ち悪くなる。
 橋本で国鉄のヘルメットをかぶってタバコをプカプカとふかしたおっさんが入って来た。
そのおっさんは私達の横に座るといきなり「タバコ吸わへんか。」と言ってきた。
私達はまだ中学一年で、見ればすぐに子供だとわかる格好をしているのに、そのおっさんは、さも、吸ってもかまわないかのように言って来るので「中学生はまだタバコ吸えない」と言ってやった。
うっとうしいので席を変えようと思うが、あいにくどこの席も満席で移る事が出来ない。
せっかくキハ10のボックスシートに座れたというのにと思う。
 443Dは定刻に和歌山駅に到着した。
先程のおっさんは「四国に行く」と言ってホームに降り、どこかへ消え去った。
 私達は「きのくに」の臨時列車を撮るために一番腺ホームへと向かった。
この「きのくに」の臨時列車は機関車牽引の客車列車で、列車番号は「9107」、白浜発、天王寺行き、和歌山到着時刻は16時34分なので到着まで1時間半も待たなければならなかった。
まず最初に急行「きのくに13号」が入線し、その次に特急「くろしお9号」が入線した。
ホームで何かざわついている人が居るなと思った次の瞬間、「万歳!万歳!」と叫ぶ声がした。
新婚旅行の出発らしい。
カメラのストロボの光が見える。
「くろしお9号」は静かに扉を閉めて発車した。
見送りの人達が帰るとホームはまたもとにもどった。