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『ボンネットバスの走る町』 (昭和53年11月5日)
日根野駅1番線には7時4分発和歌山行き各駅停車が止まっている。
この電車は日根野発和歌山行きであり、日根野始発の電車の中で和歌山行きはこの電車と一番電車の新宮行きのみである。
電車は定刻7時4分に日根野駅を発車した。
乗客は私と友人とあと一人だけしか乗っていない。
もし私達が乗っていなければ乗客はたったの一人だったかもしれない。
この電車の役目はおそらく和歌山まで走らせて、和歌山から天王寺に向かう通勤客を運ぶためにあるのだろう。
和泉鳥取のあたりから上りにさしかかり、和泉山脈をトンネルで通りぬける。
一番長いトンネルをぬけると和歌山の平野が見おろすことが出来、細く糸の様な紀ノ川も確認することが出来る。
途中、紀伊という駅で降りて駅のスタンプを押した。
形は四角で枠の中に根来寺の塔が描かれている。
これから国鉄の駅スタンプを集めようと思っている。
紀伊駅で20分程まって次の各駅停車に乗った。
六十谷を出て少したった頃に紀ノ川の鉄橋を渡った。
河原でスポーツをしている人が見えた。
今日はすばらしい秋晴れである。
電車は和歌山駅構内の複雑なポイントを通って和歌山駅に着いた。
和歌山駅は大正13年2月28日に和歌山−箕島間が開通した時に開設された駅で、昭和43年3月1日に東和歌山という名から和歌山という名へ駅名が改称されている。
和歌山は紀州55万石の城下町で、駅の西側を真直ぐ行った所に和歌山城がある。
駅は近代的な四階建ての駅ビルで、1番線から8番線まである。
そしてホームの一番東側には南海電鉄貴志川線がある。
窓口で五条までの切符を買ってホームに向かった。
ホームには和歌山線経由、王寺行き各駅停車430Dが停まっている。
この列車は電車ではなくディーゼルカーで、430DのDはディーゼルカー(DieselCar)の略である。
8時15分発430Dは定刻、和歌山駅を発車した。
車両は王寺管理局奈良運転所所属のキハ35−36である。
私達2人は和歌山寄りの一番後ろの車両に乗っている。
この車の座席は通勤型のロングシートで、とびらは片側3か所全部で6か所ついている。
私達は左側の座席を陣取った。
その理由は左手車窓に和歌山機関区が見えてくるからである。
和歌山機関区には53.10のダイヤ改正の時に廃車になったキハ81が留置されていて、これをもう一目、見たいので左側の席を取った。
列車は右に大きくカーブして紀ノ川に沿って走っていく。
和歌山機関区は田井ノ瀬駅の手前にあった。
沢山のディーゼルカーの中にキハ81は置かれていた。
キハ81は昭和35年12月、特急「はつかり」のディーゼル化によって登場した日本初のディーゼル特急で、当時さわがれた名車である。
そして今年の9月30日の上り「くろしお4号」と10月1日の下り「くろしお3号」によって盛大な?お別れ運転が行われた。
10月1日は日曜日であったので私は日根野駅の北側の踏切りでお別れ列車の通過を待った。
「ハチイチ」がここを通るのもこれが最後かと思うと何か胸にこみあげてくるものがある。
とうとう「ハチイチ」がやって来た。
機関区の人の気持ちからであろうか「ハチイチ」はかすかに化粧されている。
「ハチイチ」は万感の想いをこめて汽笛を鳴らして走り去った。