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泉の森自転車店
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 40階段を下りると韓国外換銀行が見え、片側4車線の広い通りに出て来る。
路線バスが次々とやって来る。
韓国でバスを見ると何時も違和感を感じる。
日本よりも一回り以上大きいボディーで、しかも左ハンドル、乗用車ならば外車を見慣れているのでそうでもないが、バスの左ハンドルはお目に掛かる事が無い。
日本では、道路を横断する時は「右見て、左見て、右を見る。」だが、韓国でうっかりそれをすると、車に轢かれそうになる。
車は日本と反対の右側を走行する。
 地下鉄中央洞駅(チハッチョル・チュンアンドン・ヨク)の入り口が見えたので地下へと下りる。
地下に下りた右手に自動券売機が有り、そこで切符を買う。
「あれ!」
前に来た時は一区間600ウォンだったのに、900ウォンに値上がりしている。
物価の安い韓国のイメージが過去の物となった様な気がする。
何時から値上がりしたのだろうか?
そういえば、7月に来た時は友人と一緒だったので地下鉄には乗らなかった。
1年半前は共通カード(注1)を使ったので一区間の料金を気にしていなかった。
徐々に値上げしていたのか?
切符を買う前に共通カードを改札機の通してみた。
「ガチャン!」
エラーが出てゲートが開かない。
財布の中にジャリ銭がいっぱい貯まって、重くなっているので先にそれを使う事にする。
自動券売機の所に戻って、一区間のボタンを押し、100ウォン硬貨を一枚づつ入れていく。
900を示していたデジタル表示が0を示すと切符が出て来た。
改札機に切符を入れ、遊園地のゲートの様なバーを回転させて改札を通る。
 韓国地下鉄はソウル1号線(注2)を除き全て右側通行である。
気を付けないと反対方面の列車に乗り間違えてしまう。
方向音痴なら良いのだが、下手に方角が判っていると列車が逆走して来た様な錯覚に陥る。
 私は逆走して来た老甫洞(ノッポドン)行き列車の乗り込んだ。

(注1)共通カード:駅の窓口で事前にカードを作ってもらい、所定の金額を支払ってカードにプールさせておけば、地下鉄、市内バスをスルーパス出来る。残高が無くなれば、窓口で所定の金額を追加出来る。

(注2)ソウル1号線:この路線は歴史が古く、国鉄(電鉄)との相互乗り入れがされている為、日本の鉄道技術が継承されている。実際にはじめてソウルに訪れた時に日本製の1000系初期抵抗車輌に乗った事が有る。
 ホームに降りると直ぐに列車が到着した。
私はその列車に乗らず、やり過ごした。
ホームに設置された自販機で우유차(ウユ茶)を買いたかったからだ。
ウユは牛乳の意で、ウユ茶は抹茶オーレの様な飲み物である。
韓国に来ると何故かこれが飲みたくなる。
有名なカフェでもなく、地下鉄のホームに設置された自販機で...
ベンチに腰掛けて、飲み終えた頃に次の列車が到着した。
列車に乗り込み、辺りを見回してみる。
夕方なので流石に空席はないが、日本の様に人を掻き分けて乗り降りするほどの乗車率でもない。
車内広告の文字や人の会話以外は日本と何ら変わりは無い。
携帯電話で通話している人が多く、日本の様にそれを規制するアナウンスもされていない。
年輩の人も携帯で話しをしている。
「もう直ぐ家に帰るよ。」といった内容が多く、家族を大切にする国民性が現れている様に思う。
韓国では、車内で携帯を使うと他人に迷惑が掛かるという考え方よりか、列車に乗っているという理由で家族からの連絡を無視する方が悪いという考え方なのだろうか?
国際的なモラルは守られていないにせよ、周りを無視して大声で会話している人は無く、日本に比べて融通の効く国だと感じる。
「次の駅は釜山駅です。降り口は右側です。」
車内アナウンスも日本と良く似ている。
当然、韓国語でのアナウンスであるが、最近、この程度の内容であれば聞き取れる様になって来た。
次の行動に移すタイミングが解れば余裕も生まれる。
今まで気付かなかった事も見えて来たりする。
「次の駅は西面(ソミョン)です。降り口は右側です。」
私は西面駅に降り立った。
 西面駅の改札口を出ると、ロッテ百貨店に向かって地下街が見える。
手前の広場でマイクを持った司会者を、多くの人々が取り囲んでいる。
何やら商品の説明をしている様だ。
それにしてもギャラリーが多すぎる。
一体、何が始まるのだろうか?
人だかりの隙間から中を覗くと、若者10数人が椅子に座って順番を待っている。
司会者が順に若者達を紹介し始めた。
どうやらのど自慢でも始まる様だ。
先程の商品の説明は、のど自慢の賞品らしい。
もう少し早く来ていれば私も参加したのに残念だ。
もう既にエントリー1番が待ち構えている。
幾らなんでも、「日本から来たぞ!飛び入り参加させろ!」とは言えそうな雰囲気では無い。
こんな時に韓国人の友人が傍に居てくれたら、間違いなく参加していたであろう。
 私が初めて出会った韓国人はソウル大学からの留学生で、その人は「韓国に旅行に来たら韓国の歌を歌いなさい。そうすれば、友達が沢山出来るよ。」そう言って、韓国の歌を沢山教えてくれた。
その言葉は嘘ではなかった。
今まで、それを実行して友達を増やして来た。
 日本人は海外に行っても日本人である事を誇示し、相手が日本語を理解していなくても日本語で話し、その国の言葉や文化を理解しようと努力しない。
日本人はその様に見られているから、下手でも何でも良いから努力さえすれば相手は理解してくれると、それを言いたかったのだろう。
 大衆の面前で歌を歌うなど、日本では金を貰ってでも嫌だが、韓国でなら一度はやってみたいものだ。
次の機会が有れば、必ずや...
 地上に上がると辺りは暗くなっていた。
ロッテ百貨店前の広い通りより一本東側の道を北西へと進む。
以前、釜山に来た時、友人においしいパンを貰った事がある。
パン屋の名前を忘れてしまったが、そのパンの包装に書かれた住所だけは何故か記憶している。
ハングルで 초읍동 선경아파트 3가내 と書かれていた。
「チョウプドン ソンギョンアパート3街」を探しに出掛けようと思う。
釜山広域市の地図は大体記憶しているので、地図も持たずに勘を頼りに歩き出した。
初めて歩く所なので、辺りの建物や目印になりそうな物を覚えながら進んで行く。
自分が何処に居るのか判らなくなれば、最悪、タクシーを拾ってホテルに帰ればよいだろう。
旅は楽観的でなければ面白くない。
ロッテ百貨店のビルがどんどん小さくなっていく。
前方に鉄道のガードが見えて来た。
景州(キョンジュ)に向かう国鉄線に違いない。
進むべき方角に間違いない様だ。
ガードの下を潜ると右手にバイク屋が見えて来た。
並べられたバイクを見るとスクーターが大半で、あとは125ccクラスのアメリカンだけであった。
見せて貰う程の物は一台も置いていない。
バイク屋をやり過ごすと、左手にやけに大きなスーパーマーケットが見えて来た。
日本では、イオングループなどのジャスコやサティーをスーパーと呼んでいるが、こちら韓国ではこの手の物をマーケットと呼ぶらしい。
そのマーケットでどんなものが売っているのだろうか?
気になるので寄ってみよう。
 釜山鎮区庁(プサンジングチョン)の斜め前にあるマーケットに入ってみた。
建物の造りは日本のスーパーに似ている。
1階の入り口を入ると、ファーストフードの店や食堂が並んでいて、小さな子供を連れた主婦が食事をしている。
長いスロープ状のエスカレーターで2階に上がると、家電製品やCDショップ、スポーツ用品など、様々な物が並べられていた。
商品を見ていると、ほとんど日本とは変わりない。
韓国の生活水準は飛躍的に向上している様に思う。
物価も異常に高くなっているのが残念だが...
それでも、買って帰りたい物が沢山あって困ってしまう。
日本と同じ内容の物でも、韓国の物の方がデザインが良い、色合いがハッキリしていて日本の様にベタでないのが好ましい。
以前は都心の大型レコード店にしか置いていなかったDVDソフトも沢山置かれていた。
まだ見た事の無い映画のソフトが安く売られている。
買って帰ろうかと悩んだが、ここで買ってしまうと荷物になってしまう。
大体、どんな作品がどれ位の値段なのかを覚えておいて、明日、ホテルに戻る時に買う事にした。
ここのマーケットには申し訳ないが、今日はアイショッピングだけさせて貰おう。
 マーケットの外に出ると建物の前に小さな広場が在った。
ベンチが置かれていて自動販売機も有る。
そこで紙コップのホットコーヒーを買った。
日が暮れてかなり冷え込んで来たので、暖かいコーヒーが美味く感じる。
値段もリーズナブル(300ウォン、日本円で36円程)。
 寒い時は体を動かすのが一番、目的の초읍동(チョウプドン)に向かって再び歩き始めた。
頼りになるのは道路標識のみ、もし道に迷ったなら「子供大公園は何処ですか?」と、聞くつもりでいる。
有名な公園なら誰でも知っているだろう。
 それにしても、今まで一体どれ位歩いたのだろうか?
韓国の道路標識には距離まで書かれていない。
日本のは親切だとつくづく感じる。
韓国に来る前に釜山の地図を見ておいたが、子供大公園は山の麓に位置した。
暗がりの先に見える山陰まで、後数キロも有りそうだ。
引き返そうか?先に進もうか?寒さと孤独感で少し弱気になって来た。
来た道を振り返って見ると何も見えない。
「前進有るのみだな。」
思い切って突き進んで行くと、前方に大きな交差点が見えて来た。
その交差点の先に繁華な街並みが覗いている。
「いよいよこの辺りが초읍동(チョウプドン)か?」
そんな予感がして来た。