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泉の森自転車店
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 チョウプドンらしき街並みが見えて来た。
道路の左右には店舗が軒を並べている。
派手な看板の文字以外は日本の街並みに良く似ている。
私が海外からやって来た人間とは誰も気付いていない。
言語が違うだけで、韓国に来て数時間も経てば自分が海を渡って海外に来ている事さえ忘れてしまう。
外国に居ると意識しなければ、道を覚えるのも日本と同じで、自分で歩いてさえいれば方角は何となく判って来る。
この道も路線バスが通っているので、行き先を見れば何とかなる。
 左手にソンギョンアパートが見えて来た。
アパートの先の空き地から大音量の音楽が聞こえて来る。
韓国の演歌の様な音楽が流れ、夜店が開かれていた。
静かなアパートの隣で、こんな大音量の音楽を流しても苦情はないのだろうか?
寒いのにかなりの人出である。
この夜店は何の為に開かれているのだろうか?
若者が居ればそれとなく聞いてみるのだが、残念な事に年輩の人しか居ない。
年輩の人に声を掛けると早口でしゃべられて困ってしまう。
しかも、使う言葉が難しい。
私の能力では到底理解出来ない。
地元住民だけの殺伐とした雰囲気に息苦しくなってその場を抜け出してしまった。
結局、何の為の夜店だったのか理解出来ないままに...
 夜店を後に、再びバス通りに出た。
探しているパン屋は一向に見当たらない。
ここまで来ると絶望的である。
左手にファーストフードの店が見え、ロータリーに辿り着いた。
その先に子供大公園の入り口が見えている。
結局、パン屋は見付からず最終地点に到着した。
 この辺り、子供と名の付く公園なのに、この周辺にはモーテルと書かれた看板の怪しげなホテルが林立している。
ノレバン(カラオケボックス)やPCバン(ネットカフェ)ならいざ知らず、モーテル(ラブホテル)は子供への教育に良くないのではと感じてしまう。
日本なら公園周辺は風紀地区に指定されているのだが、韓国はそう云った教育がないのだろうか?
折角、ここまで来て、そのまま引き返すのも気が引けるので、数件在る内のPCバンに入る事にした。
受付で時間を指定して、IDカードを受け取り席に着く。
PCにカードに書かれたID番号を入力すると利用時間が表示され、精算時に料金を支払うシステムは日本と変わりない。
ドリンクは係りの人に頼めば持って来てくれる。
何処の店でもサービスは日本よりも充実していると思う。
人件費の高い日本との違いだろうか?
ここで私は12月30日のブログの更新をした。
日本語が打てなくて残念だったが、何とか皆勤で更新が出来て良しとしておこう。
 PCバンを出ると外はかなり冷え込んでいた。
バス通りに出て、来た道を歩き出した。
そう云えば、まだ食事を済ませていない。
急に空腹感が襲って来た。
来る時に通った道筋には、「ここに入ってみようか。」と、思える様な食堂は無かった。
少し考えてから、何時もお邪魔するヨンジュ市場のおばさんの所で食事をする事に決めた。
バスで西面に戻り、地下鉄で中央洞に向かうと時間が遅くなりそうだ。
タクシーを使う事にした。
空車のタクシーが近づいて来た。
「地下鉄中央洞駅まで。」
ルームミラーに映る運転手を見て驚いた。
女性ドライバーだ。
韓国に来て初めて女性ドライバーに巡り会った。
私が「日本から来たんですよ。」と言うと、「韓国語が上手ですね。留学生ですか?」と聞いて来る。
「家で勉強しました。」と言うと、「ほんとに上手ですね。」と誉めてくれる。
気さくで陽気なおばさんだ。
「何時まで仕事してるんですか?」
「3時まで。」
「しんどくないですか?」
私の質問に、おばさんは、にっこり笑って「しんどいよ。」と、そう一言呟いた。
韓国の道路事情を考えると、おばさんがいかに苦労しているかが想像出来る。
怒涛の如く割り込みをして来る車の群れの中を、1日中掻い潜っているのだから神経は擦り切れてしまうだろう。
生活を守る為に力強く生きている様に見えるが、おばさんの「しんどいよ。」の言葉には心の底から出た本音なのだろう。
タクシーは私の泊まっているホテルの近くに差し掛かった。
信号の手前で「ここで停めてもらえますか。」と声を掛ける。
おばさんは、慢心の笑顔で「ありがとう御座います。」と言ってくれる。
料金は7500ウォンだった。
1万ウォン札を出すと、おばさんは間違えて5000ウォン札を返して来た。
おばさんは「何をしているやら。」そう言って、また、大笑いしている。
また何時か、おばさんの運転するタクシーに乗る事が出来るだろうか?
そう思いながら走り去るタクシーが小さくなるまで見届けていた。 
 一旦ホテルの部屋に戻り、荷物を置いて食事に出掛ける準備をした。
時間は9時を少し回っている。
フロントに部屋の鍵を預けて表に出る。
道を隔てた向かい側に、王宮の建物を模した巨大なコモドホテルの建物が聳え立っている。
私の泊まっているホテルとは、えらい違いだ。
だが、私はコモドホテル前の”ショボイ”ホテルが気に入っている。
予約しなくても名前を言えば何時でも部屋を空けてくれるし、なにより、金をチラツカセテ韓国クラブの若い姉ちゃんをハベラセている腹の出た親父が居ないのが良い。
 ホテルの近くには食堂が沢山あるが、何処も日本語の看板を掲げた観光客相手の店ばかりだ。
そう言ってしまうと悪い印象を与えるが、中には地元の人間に人気の美味い店も有ったりする。
いずれにしても、一人で入るには敷居の高い店なので、私一人の時は坂を下ったヨンジュ市場の食堂まで出向く様にしている。
夕方にも通った坂道を下ってヨンジュ市場に向かう。
八百屋の前を通って、突き当たりのヨンジュ市場通りを左に曲がると、何時も行くおばさんの食堂が在る。
扉を開けて中に入ると「オー、日本から友達が来たぞ!」と、おばさんが喜んで従業員や店の客に言って周る。
「何時、こっちに来た?」
「今日、来ました。」
「何日の予定?」
「1日に帰ります。」
「今日は何を食べる?」
「おばさんに任せるよ。」
「それじゃ、サンダンバラにするか?酒は?」
おばさんと話しをしていると、今度は従業員も割り込んで来た。
「みんなでビール飲もうよ!」
本来なら、一人寂しく食事をするところだが、おばさん達の厚意で賑やかな宴会となった。
ここヨンジュ市場の人達は日本人をカモにしようという気など更々無く、間違えて天から迷い込んで来た使者を迎え入れる様な、そんな手厚いもてなしをしてくれる。
周りのお客さんも、こちらの騒ぎが気になるらしく、横目でこちらをチラリチラリと覗いている。
「今度は何時来る?」
「予定は未定」
出来れば頻繁に伺いたいのだが、近いとは言っても海外旅行、そう度々来れる筈が無い。
 あっという間に時間が過ぎ、お客さんも一人二人と帰って行く。
私もそろそろホテルに帰らなければ...
従業員のおばさんは明日休みなので、今日が最後になるからと、見送ってくれた。
「セへ・ポン・マニ・パドゥセヨ!」
「良い御年を!」