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泉の森自転車店
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 朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。昨日買った小さめのカバンに必要な荷物だけを詰め込んで宿を後にした。
 これから、世界遺産の水原華城に向かおうと思う。電鉄永登浦駅前には初老の男性が大勢集まっている。その多くは職を失った失業者なのだが、中には完全にルンペンに成り下がった風体の者も居る。
 電鉄に乗って水原に行くには約1時間を要する。途中、たばこを吸う事が出来ないので駅前の広場でたばこを吸っていると、「たばこ1本くれないか?」と、失業者風の男が寄って来た。黙って1本差し出す。
「火をくれないか。」
火を付けてやると、一服しない内に、また、「もう1本くれないか?」と言って来る。
聞こえない振りをして無視すると、今度は逆上して説教をまくし立てて来た。
 エスカレータで2階のコンコースに上がり、PCコーナーでメールの確認を済ませ、地下鉄の切符売り場で水原までの切符を買い、電鉄の乗り場に向かう。電 鉄は、ここ永登浦駅で仁川方面と水原方面に分岐する。同じホームに両方面の電車が入線するので乗車の際は注意しなければならない。入線して来る車輌に掲げ られた方向幕に注意を払うが、水原の文字が認められない。どうも水原止まりの電車は無い様だ。何回かやり過ごした挙げ句、諦めて仁川行きでない電車に乗り 込んだ。
 車内の路線地図を見ると、この電車は水原の先の駅まで行く様だ。乗り間違えでなく安心した。電車は国鉄京釜線と併走する形で各駅に停車し水原へと進む。
 左手に操車場が見え、その奥に国鉄の古い車輌が展示されている。後で調べて判ったのだが、ここが韓国鉄道庁(コレイル)の鉄道博物館らしい。車窓は徐々に郊外の風景へと変わっていく。
 電車は構内の複雑な分岐を通り、目的地の水原駅に到着した。

 水原駅の改札口を抜け、エスカレータを降りると、正面に大きなロータリーが広がる。ロータリーを迂回する形で梅山路(メサンノ)に出て、道路標識の水原華城(スウォンファソン)を頼りに歩き始めた。
 途中、スクランブル交差点を左に曲がり、上り坂を登り切ると、その先に道庁の正門が見えて来た。どうやら道を間違えた様である。正門手前を右に折れる道 も有るのだが、はたして、その道を通って水原華城に辿り着けるかの保証も無い。こうなったら、元の交差点まで戻る方が賢明であろう。折角、息を切らせて 登って来た坂道を、とぼとぼと気のない足取りで降りて行く。道を間違えていなければ京畿道の道庁を見る事も無かったであろう。考え方によっては貴重な体験 なのかもしれない。水原市が京畿道の道庁所在地であると、道に迷った事によって知る事が出来た。
 スクランブル交差点に戻り、今度は斜め方向に進む。遙か彼方に八達門(パルタルムン)が見える。八達門に向かってもくもくと歩き続ける。ようやく、あと 二つの信号まで辿り付いた所で反対車線に横断する。道路の真ん中に差し掛かった所で八達門を見ると、アーチの真ん中に、門の反対側が道路が真っ直ぐに伸び ている。ソウル市内の南大門よりも立派な構えをしている様だ。


 八達門の右手に市場の入り口が見えて来た。城郭を形取ったアーチにはハングルで「チドンシジャン」と書かれている。「シジャン」は「市場」だから「チド ン市場」なのだが、「チドン」が何の事だか解らない。後で調べて解ったのだが、「チドン」は市場周辺の地名(池洞)らしい。

 その池洞市場を通り抜けると、道は左にカーブしながら坂道に差し掛かる。坂道を少し登ると左手に城郭が見えて来た。右手の高台の上には立派な教会が建っ ている。どうやらここでも道を間違えた様だ。引き返す前に折角だから右手に見えている高台の上に建っている教会を見に行く事にした。
 教会に向かう道は、かなりの勾配で歩道は階段状になっている。車道を歩いていると後ろに転げそうになる。息を切らして急坂を登り切り、教会の入り口に立つと水原華城の城郭が見事に一望出来た。

 ここで初めて気付いたのだが、私は城郭の外側に立っているらしい。坂道を下って来た道を戻らなければならない。
 池洞市場の出口まで戻り、二叉に分かれる道を左に出て城郭に沿って伸びる遊歩道を進むが、一向に城郭内に入る道が見当たらない。歩くほどに水原華城の城郭の広大さに驚かされる。
 右手に民家の庭先が見え住人が挨拶をしてくれる。その先の緩い坂を下った所にやっと城郭をくぐり抜ける通路が現れた。