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泉の森自転車店
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 長い階段を降りて、やっと八達門の所まで戻って来た。来る時は、ここまで歩いて来たのだが、もうこれ以上、歩く気にならない。「駅までバスで行こ う。」、そう思っている矢先に、広い通りにバスが現れた。前面の方向幕に掲げられた行き先は「水原駅」ではなかったが、何となく直感で「これだろう。」と 感じたので、闇雲に飛び乗ってしまった。運転手に「水原駅に行くか?」と尋ねると、「850ウォン、早く入れろ。」と答えにならない催促をされた。金を出 せと言うのだから行き先は間違っていないのだろう。
 路線バスは、朝来る時に迷ったスクランブル交差点を右手に曲がり、水原駅に向かう大通りに出た。終点が駅前なら心配はないのだが、乗り過ごして訳の分か らない、とんでも無い所に連れて行かれると大変な事になるので、聞き取りにくい案内放送を聞き漏らさない様に神経を集中する。「次は水原駅前」、路線バス は無事、水原駅前に到着した。
 水原駅前で路線バスを降り、エスカレーターで2階コンコースに向かう。広いコンコースの中央に売店が有ったので、そこで瓶入りのフルーツジュースを買って一息付いた。
 この水原駅は、国鉄(韓国鉄道公社)在来線の主要駅である。ソウルと釜山を結ぶ韓国一の幹線京釜線と、地下鉄1号線相互乗り入れの電鉄(近郊路線)とが併走し、通勤通学客、買い物客、旅行客が入り乱って構内は活気に溢れている。
 永登浦までの切符を買いホームに降りると、待つほどもなく電車が到着した。二駅先が始発とあって車内は満席であった。様子を見ようと一本やり過ごしたが、次に来た電車も相変わらず満席で、仕方なくその電車に乗り込んだ。
 電車は各駅に停車しながら田園風景の中を突っ走る。席が空くのを期待していたが、結局、永登浦の5つ手前の駅でやっと座れる事が出来、そうこうしている内に電車は永登浦駅に到着した。
 永登浦の駅を降り、今まで歩いた事の無い東側出口へ出てみた。国道に沿った西側とは違い、こちらは庶民的な下町の風情が残されている。出口周辺にはポ ジャンマチャ(包装馬車)の準備をするおばさん達が集まり活気に溢れている。日本では暗くなると店も閉まり、人気が無く閑散とするのだが、ここ韓国では、 人の歩く所には必ずと言って良いほど屋台が立ち並び、人々の購買意欲をかき立てている。
 線路に沿って南側に延びる路地の先には近代的なマンション(日本では団地と呼ぶ)が立ち並んでいる。日本であれば「汚い、臭い」と言って、速攻、露天商 締め出し運動が起こるだろう。その行く末は、コンビニの駐車場に胡座をかいてへたり込んでいる女子高生の姿であり、閑散とした路地裏の通り魔事件なのだか ら、人の歩く所には活気のある露天商を残す必要があるのではないだろうか。
 駅出口から真っ直ぐ延びる道を進み、右に折れ、急な坂道を登ると永登浦の駅の全景が望めた。私は7年前に初めて韓国を訪れ、この町にやって来たのだが、この町に立っていると、それより以前に子供の頃に住んでいた様な妙な錯覚に陥ってしまう。
 坂道を下り路地を探索していると、精肉屋の前に1台の見事に飾り付けられたオートバイを発見した。強烈なカスタム魂を持った持ち主は、どんな人なのだろうか?何かに引きつけられる様に、店の中に引き込まれてしまった。
 「表のオートバイはおじさんのですか?」
 「そうだよ。何処から来たの?」
 「日本からです。昔、父や祖父が永登浦に住んでいました。」
 「そうか、それで韓国語が話せるんだ。」
 「父は全く話せませんよ。父を韓国に案内しようと思って勉強しました。ところで、お じさん、表のオートバイの名前はなんですか?」
 「マグナ。」
 「排気量は?」
 「125、最近は韓国でも大きなのが増えたがね...俺はこれが一番だ。」
 「写真を撮らせて貰っても良いですか?」
 「ああ、良いよ。」
おじさんは表に出て、センタースタンドを掛け、ハンドルを真っ直ぐにすると、「これで良く撮れるだろう。」と言って、恥ずかしそうに背を向けて店の方に向 いてしまった。オートバイの横に立って自慢そうにツーショットを撮るよりか、男らしい後ろ姿の方が、よっぽど格好良く感じる。子供の頃、父のベンリイの後 ろに乗せて貰った時の背中の大きさに似た貫禄と共通する物が感じられた。
 「今度は親父と一緒においで。」